忍者ブログ

気の向くまま

まったりオタクライフの日々

カテゴリー「彩雲国小話」の記事一覧

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

進まない

彩雲国もBASARAも書こうとすると手が止まってしまいます。
困ったなー。
時間が何とかなるのは今月くらい、というか半月くらいしか
ゆっくりできないのに。

9月中旬から12月上旬までゆっくりできないので
今のうちに書きたいのにー。のにー。

こんな時は、思い浮かんだ話でも書いてみるのが
いいかな、と思ったので、続きから小話を投下。


久しぶりに桃花扇ヒロインでIFなお話。
絳攸×ヒロインです。ちなみに結婚している設定。
……絳攸の出番はほとんどありませんが。
本編じゃあり得ないけど(苦笑)
デフォルト名は「早苗」です
PR

・・・つづきはこちら

思い浮かんだから書いてみた

桃花扇ヒロインは官吏の道を突っ走っておりますが、
もし愛に生きたらどうなるかな、と考えてみました。


なかなか思い浮かびませんでした(笑)


あんまり、愛だの恋だのと言わない設定にしちゃったからなあ。
BASARAのKGが聞いたら、それは勿体ないよ、と言われそうです。

というわけで、頑張って桃花扇ヒロインで書いてみました。
意味不明になっちゃったけど(汗)
お相手は絳攸で、デフォルト名は「早苗」です。

・・・つづきはこちら

彩雲国小話

桃花扇の第一部に入れ損ねたネタというか、話の流れ上、
ボツになった話です。
ヒロインが用心棒になりたての頃で、秀麗に会う前のお話。



この界隈では一番の妓楼の一角にある、妓女達の部屋の近くに
早苗の室があった。室といっても最近まで物置にされていた部屋であり
使われなくなった家具や道具が未だに隅に積まれている。
しかし、ほとんど睡眠以外この部屋を使うことがない早苗にとって
それはどうでもいいことだった。

日中はこの妓楼の用心棒として働いている。
それ以外の時間は祖父捜しに費やしており、
彼女を知っている人なら、誰もが知っている事である。

あきらかに偽の情報じゃないかと思うものにさえ早苗は
飛びつき、最近では妓女連を束ねる親分である胡蝶でさえ、
眉をひそめるような場所に出入りしていた。

今日も駆けずり回り収穫がないまま戻った早苗はそのまま
気絶するように布団の上に転がった。
寝息が室内に聞こえ始めた頃、静かに扉が開かれる。
入ってきたのは胡蝶だった。

「……また怪我を負ったのかい。全く、困った子だねぇ。」

形のいい眉をひそめた胡蝶は軽い溜息を吐いた。
早苗の顔や手には無数の傷や殴打の跡が見えている。
一体、どこで何をしてきたんだか、と本当に思う。

「手当もしないで眠っちまって……。傷が膿んだらどうするんだい。」

胡蝶の白くて細い指先がそっと早苗の手首に触れた途端、
眠っていたはずの早苗の目が開いた。

「……胡蝶姐さん?」
「ああ、起こしちまったかい?悪かったね。」
「いえ……。なんでこんな所に?」
「なんで……って早苗の手当に決まってるだろう?さ、手をお出し。」

「いえ……かすり傷ですし、自分でできますから大丈夫ですよ。
それより、胡蝶姐さん、仕事じゃ……。」
「ふふ。焦らし待たせるのも手管の一つさ。この胡蝶自ら手当を
する奴なんて滅多にいないよ?それを断るとでも言うのかい?」
「いや、それでも……。」
「ああ、もう焦れったいね。この胡蝶がいいと言っているんだから。」

自分で手当をするといってひかない早苗の手を、胡蝶は強引に
引っ張り出し手当を始めた。早苗の傷を見て、胡蝶の目が一瞬だけ
険しくなる。

”刃物で斬られた傷……か。”

早苗の腕は胡蝶も知っている。その早苗にこれだけの傷をつける
相手となれば、かなりの手練れだろう。しかし、そんな相手と早苗の
刃傷沙汰は胡蝶の耳には届いていない。

一度、胡蝶の懐にいれた人間については、どんなことでも胡蝶の耳に届くように
情報網は張り巡らしてある。情報が武器の一つでもあるからだ。
けれど、早苗が祖父捜しを始めた頃の動きは胡蝶にも届けられていたが
最近では早苗が何をしているのか胡蝶の耳には入らなくなってきた。

つまり早苗は胡蝶が知っている範囲外で動いている、ということである。
いくら胡蝶が妓女達を束ねる親分で、そして他の親分衆ともつながりが
あるとはいえ、すべての情報を把握できるわけではない。
それゆえ、胡蝶の手が届く範囲外で何かが起きてしまったら、もう胡蝶には
早苗を助けることができなくなる。

「……少し、怪我をしすぎだよ、早苗。」
「すみません……胡蝶姐さん。」
「ただでさえあんたの仕事は危険が伴うんだ。無茶をおしでないよ。」
「はい。」

胡蝶にとって早苗は、ある妓女を助けられた際に知り合った娘である。
花街というよりすべてに不慣れな様子だったが、胡蝶が驚くほど早く
彼女はこの生活に慣れていった。
最初は胡散臭げに見ていた他の妓女や男衆達も今では彼女を見ても
怪訝な表情を見せるようなことはしない。

だからといって、好意的に受け入れられているというわけではないが。
つまり、空気と同じでいようがいまいが誰も気にとめない、という
わけである。もともと花街は大半が出身地が不明だったり、氏素性が
よくわからない者が多く集まる場所である。だから早苗がどこの出身か
わからなくても、それを気に止める者がほとんどいない、ということなのだ。

雇う妓楼側としても、お尋ね者でない限り、きちんと仕事さえしてくれれば
素性など気にも止めない。胡蝶でさえ把握しかねている妓女達もごまんといる。
胡蝶はそれなりに長く花街にいるわけだから、多くの男や女達を見てきた。
運良く身請けされる者もいれば、騙されて金だけ奪われた女もいた。

妓女を性欲の捌け口としかみない男もいれば、妓女に入れ込みすぎて
身代を傾けた男もいた。まさしく星の数だけ男もいれば女もいるわけで、
だからこそ男女間の出来事も数え切れないほど色々、色々あったものだ。
けれど、多くの人たちを見てきた中で早苗だけは異質だと胡蝶は思っている。

それが何なのかはよくわからない。わからないからこそ、こうして些細なことで
胡蝶は早苗に話しかけるのだ。その何かを知りたくて。
早苗は外見はどこにでもいるごく普通の娘だ。大勢の中に紛れ込んだら、
そこに溶け込んでしまうような容姿。

腕っ節も確かに強いが、べらぼうに強いわけではない。こうして考えると
話している割に、胡蝶は早苗のことをよく知らない。最も、早苗も胡蝶の
ことを聞いてこようとしないから、胡蝶のことは妓楼一の妓女と、妓女連を
束ねる女親分というくらいしか知らないだろうが。

「さ、これでお終いだよ。疲れているのはわかるけど手当くらいちゃんとおし。」
「はい。お手数おかけしてすみませんでした。」

すまなそうな表情をして早苗は深々と頭を下げる。
いつまでたっても他人行儀な態度は変わらない。隙あらば胡蝶にすり寄ろうと
する輩は多いのに、よりにもよって胡蝶自身が気にかけている人間が
近づいてこないというのも皮肉である。

思えば早苗は誰に対してもそうである。挨拶はするし、話しかけられれば
きちんと話す。けれど、一線を引いている。早苗はそれを渡ろうとはしないし、
相手にも渡らせない。それだけは許さないという拒絶を胡蝶は感じ取っていた。
そこを超えなければ、胡蝶がしりたい『何か』には手が届かない。

「ああ、そうだ。明日から早苗にちょいと頼みたいことがあるんだ。」
「私にですか?何でしょう?」
「ウチに帳簿付けに来ている女の子がいてね。ああ、確か早苗と同じ年だよ。
その子の仕事が終わったら邸まで送り届けて欲しいのさ。」

「邸……ですか?」
「そうさ。ちょいとワケありの子でね。詳しいことは明日、話すから頼んだよ?」
「はい。わかりました。」
「それじゃ長居してすまなかったね。ゆっくりお休み。」
「ありがとうございます、胡蝶姐さん。」

胡蝶は白く細い指を蝶のように揺らして早苗の室から出て行った。

「砦を崩すには正面から……なんて決まってるわけじゃないからねえ。」

ふふ、と紅が引かれた唇を持ち上げ、胡蝶は艶やかに微笑む。

「この胡蝶が探りをいれても何もわからないなんて、姮娥楼一の妓女として
名折れだからね。前が駄目なら後ろからいこうじゃないか。」

同じ年頃の子同士なら早苗の対応も違ってくるだろう。
そうなったら、早苗から引き出せる情報も増えるはずだと胡蝶は睨んでいる。
本当なら早苗を表には出したくなかったのだが。

「気になるんだから仕方ないねえ。」

くつくつと笑いながら胡蝶は客が待っている室へと足を向ける。
確か今日は、上客の一人だったか。
高揚感を押さえきれないまま、胡蝶は艶冶に笑って扉を開いた。

「待たせちまってすまないねえ、藍さま。」


この夜の胡蝶の決断により、早苗は秀麗と出会い、邵可や静蘭や楸瑛、
そして絳攸との出会いに繋がることになる――――。
このときの早苗は何も知らないまま、疲れた体を癒すべく眠っていた。


そして翌朝。


「こんにちは。私、紅秀麗って言うの。時々、貴女のことを見かけていたわ。
ねえ、名前も聞いてもいいかしら?」

胡蝶から頼まれた仕事を切り出す前に、秀麗の方から早苗に話しかけてきた。
その時の秀麗の笑顔はまるで向日葵のようだった、と早苗は後になって述べている。


そして、後に初の女性官吏となり何かと比較され相反する道をたどった
二人の出会いはここから始まることになる――――。


<あとがき>
実は、第一部の序盤はもっと長く秀麗が出てくるまでかなりの長さが
あったんです。でもそれだどオリキャラ続出でつまらないので
さっくりカットし、ああいう形になりました。その結果として胡蝶姐さんとの
絡みが浅くなったんだよなあ……。ちなみに第一部はこれで終わる
予定でした(笑)いくらなんでも本編に入る前に第一部が終わるのはなあと
思ってかなり書き直しました。もったいない時間の使い方(苦笑)
ヒロインがこの頃に何をしていたかは、第四部で書く予定です♪

彩雲国小話

桃花扇の第三部に入れ損ねたネタです。
今回は、燕青と静蘭が主役でGO!




「燕青。早苗は帰してもらうぞ。」
「は?お前、いきなり何を言ってるんだよ。」

秀麗と香鈴と早苗が女同士仲良く話している壁一枚の向こうで、
俺も鶏団子食いたい、と心底羨ましそうにしている燕青の
背中に静蘭は突然、早苗を帰してもらうと言い放った。
いきなりの言葉に燕青はぎょっとして振りかえる。

「言葉通りの意味だ。それすらわかからんのか、このコメツキバッタ。」
「いや、バッタは関係ねえじゃん。」
「もうお前は早苗の師匠でいる必要はない、ということだ。」

静蘭の言葉に燕青の眉がわずかに寄る。

「……櫂のじっちゃんが言っていたことと関係があるのか。」
「そうだ。」

”早苗は上に行く決心をしたようですね。”

そう言って意味ありげに二人に告げた櫂喩の言葉を燕青は思い出した。

「……早苗は主上に側に来てくれ、と言われている。まだ返事はしていない
ようだが、櫂喩殿に上に行くことを伝えたと言うことは答えは出たも同然だ。」
「まぁ、な。そっか……早苗のやつ、行くのかぁ……。」

静蘭がちらり、と視線を動かすと燕青の横顔は寂しさと心配で溢れていた。

「不服そうだな。」
「不服っつーか、心配っつーか。俺、個人的には早苗は上にいって
欲しくはねぇんだよなあ。」
「どういう意味だ。」

「んー、なんつーか早苗は姫さんと違って何でも捨てるだろ?
姫さんはその手に掴めるだけ掴もうとするし、一度掴んだもんは
ぜってー捨てない。だからこそ奇病騒ぎの時も乗り込んでいったわけだしさ。」
「それがどうした。」

「これが早苗だったら姫さんと同じ事はしなかっただろ?別に村ごと
焼き尽くすようなことはしないと思うけどさ。姫さんはあらゆるものに
目をかけて手を差し伸べるけど、早苗はそれを一人にしか向けない
人間だと俺は思う。これで早苗が王さまに忠誠を誓うというのならば、
早苗は王さましか見なくなるぜ?」

「王に忠誠を誓う腹心では不満か。」
「不満だね。はっきり言わしてもらうが、今の主上に早苗の『忠誠』を
受け止める『覚悟』があるとは思えねえ。」

燕青の脳裏に王と側近達の姿がよみがえる。たまたま居心地が
よかったがゆえにずるずると馴れ合っている彼らの姿が。
見たくないものから顔をそらし、自分にとって都合のいいものしか
見ていない。そんな所に可愛い弟子を放り込むことは燕青には
許し難かった。

「早苗は何も持っていない。だからこそそれが何を意味するのか。
あの主上がそことんとこわかってるのか?」

射貫くような目を向けられ静蘭は口ごもった。

「早苗は、主上を守るためなら何でもするぜ。自分の意志も
立場も命も何もかも『王の為』に使うだろう。
それを背負う覚悟が今の主上にあるとは俺には思えないね。
もし主上がその覚悟の意味をわかるときがくるとしたら、
それは早苗が死んだときだ。」

燕青の言葉に静蘭は沈黙した。その通りだと彼も思うからである。
主上は、弟である劉輝は早苗に側に来て欲しいと望んだ。
何も持たない早苗を側に置くことの意味をわかっているとは
静蘭も思っていない。けれど、いつだって自分の気持ちより
周囲を思いやってきた弟が自ら望んだのだ。

「……主上の御心は主上にしかわかるまい。ただ言えることは
早苗はそれを承知の上で、いや、だからこそ決めたのだろう。
仮に今の側近達が忠誠を誓っても、早苗のように動くことは
できまい。」
「早苗に捨て駒になれと?」

「早苗が望んだんだ。たとえ主上が早苗の覚悟を計りかねて
いたとしても、自分のことを切っ掛けに王としての自覚が
芽生えるなら躊躇う理由はない、とな。」
「俺は認められねえ。早苗を死地へ追いやる為に弟子に
したわけじゃねぇんだ。少しでも早苗の選択肢が広がるように、と
思って教えたんだ。望んだのはこんなことじゃない。」

「……燕青。お前の望みと早苗の望みは違う。それだけだ。」
「わかってる。俺の望みを早苗に押しつけるつもりはさらさらない。
けどな!いくら早苗が納得していようが、それを受け入れる側が
全くわかっていないのは俺には許せない。そういうことだ。」

「だからといってお前が早苗の側にいてやれるとでもいうのか?」

静蘭の言葉に今度は燕青が言葉を詰まらせた。

「無理だろう?お前が選んだのはお嬢さまだ。お前がお嬢さまの
側にいることはあっても早苗の側にいることはあるまい。
いや、できないだろう。早苗が主上の側に行くことをお前が反対
したとて、早苗は必ず主上の側に行く。
……それが、早苗の意志だからだ。」

「くそっ……!!」
「早苗の覚悟の程を主上がわかっていないと言いたいお前の気持ちは
よくわかる。けれど、早苗自身の覚悟はわかるだろう。」
「……ああ。」

「邪魔をするなら早苗は師であるお前を簡単に捨てていくぞ。
下手をすれば敵と見なすだろう。今の主上に忠誠を誓うということは
即ち、いざというときは彩七家や貴族達を敵に回す可能性を持つ。
そして、早苗はその覚悟を決めている。

今は選ぶ時ではないが、そのときがきたら早苗は燕青や私はもちろん、
お嬢さまも旦那さまも捨てて主上の元は馳せ参じるだろう。
無論、あの側近達にすら刃を向けるだろう。紅藍両家すら敵に回す
ことに躊躇わないほど覚悟を決めた早苗の意志を止めることは
誰にもできない。

そして燕青。お前はお嬢さまを選んだ。時と場合によっては、
つまり紅家の出方次第ではお前と早苗は敵対関係になる可能性もある
ということだ。」

「俺は紅家に仕えているわけじゃない。姫さんだぜ。」
「お嬢さまの持つ血がそれを許さないだろう。直系長姫の上、
当主である黎深殿に溺愛されているわけだからな。
いくらお嬢さまが官吏であることを望んだとしても、朝廷の状態一つで
紅本家はお嬢さまと旦那さまを退かせるだろう。
旦那さまはともかく、紅家の力を盾に、なおかつ黎深殿の後見を
持つお嬢さまに拒否権はない。たとえお嬢さまが拒もうとも
そのときは無理矢理にでも紅州へ連れて行かれるだろう。
そのときは燕青。いくらお前でも止めることはできん。」

静蘭の言葉を聞いて燕青は深い溜息を吐く。

「だから早苗を主上の側に行かせたくないんだよ。
姫さんなら何一つ取りこぼさないようにするし、ぎりぎりまで
敵対しないように考えて考えて考え抜く。
けど、早苗は最初から一つしか見ていない。その一つしか
守ろうとしないから、他のをあっさりと手放しちまうんだ……。」

「身の丈、というを知っているんだ。見知らぬ場所でただ一人
家族を捜しているような子だ。自分の限界以上のことに手を出すような
人間だったら早苗はとっくにこの世にはいない。
いつだって身の保身を考え、できることとできないことを見極めて
きたからこそ生き抜いてきたんだ。お嬢さまと違って早苗には
誰もいない。助けてくれる存在が何一つないんだ。」

誰もいない、という言葉に燕青はハッとして顔を上げた。

「そういうことだ。誰もいないからこそ主上の助けになれる。
そして、主上には誰もいないからこそ自分が行く、と早苗は
決意したんだ。……あの側近どもがまともな側近だったら
早苗は主上の側には行かなかっただろう。」

「そうだったらよかったなぁ……。ていうかさ、ふつーに
嫁に行くとかは駄目なんか?」
「……早苗は藍龍蓮との縁組みを当主直々に持ち込まれなおかつ
それを断っている。」
「まじっ!?龍蓮坊ちゃんが相手かよ……。」

「問題は藍龍蓮じゃない。あの藍家からの縁組みということだ。
断ったことに何のお咎めがないことは安心したが、その結果、
早苗は藍家以上の相手でなければ結婚はできない。」
「え?そうなのか?」

「もし早苗が結婚するなら王家か紅家直系男子のみ。
そうでなければあの藍家が黙ってはいまい。だが現状を
考えると、貴族の娘でもない早苗が嫁ぐのは無理だし、
そもそも相手がいない。どう考えても今の早苗に結婚という
選択肢はないな。」

「うわー、なんか酷くね?」
「あの藍家だからな。そういうやり方ばかりする一族だ。」
「わちゃー。」
「さらに追い打ちをかけるようだが、早苗は絳攸殿をかばって
兇手を殺している。詳しい経緯はわかりかねるが、早苗はもう二度と
故郷に戻ることはできなくなったらしい。」

「……本当に?」
「ああ。」

燕青が茶州で駆けずり回っている間に、ただ一人の弟子は
とんでもないことに巻き込まれていたのかと思うと胸が痛くなる。
どう考えても側にいてやれることなんてできないのに、それでも
もし、自分が側にいてやれたら、なんて埒もないことを燕青は
思ってしまった。

「そっか……。早苗のやつ、李侍郎さんを庇って……。」

黄尚書の邸で、絳攸と話している早苗を燕青は思い出した。
去年の夏。猛暑の時だった。女性による国試受験制度が導入
される直前のときで、あの夜、絳攸は早苗に引っ張ってやると
言い切り、それに早苗は深く頷いていた。

あのときの二人に、影月や香鈴のように甘酸っぱい空気など
微塵もなかったけれど、それでも確かな信頼関係を築いている
雰囲気はしっかり伝わってきていた。
けれど、そのようなことが起きたなら、多少なりとも二人の関係は
変わってしまったことだろう。以前のように戻れるわけがない。

燕青は天井を仰いだ。この先、どんな現状が待っていようとも
早苗が主上の側に行く意味を否応なしに悟ってしまったから。
本当はわかりたいくないし、本音を言えば反対なのだけれども。

「わかったか、このコメツキバッタ。早苗はもうお前の弟子で
いることはできない。何より早苗自身が動き出している。
早苗は自分の意志で歩いている。だからこそ止まるのも
自分の意志でしかない。お前がそこでごねても無駄だ。」

「そりゃそうだろうけどさ。たった一人の弟子を心配する
俺の気持ちも察してくれよ。」
「私は無駄なことはしない主義だ。」
「……俺の心配は無駄かよ。」

「私は早苗の側にはいられないが主上の側にはいる。
早苗が上に行くというなら私がそれを助ける。さすがに
今のまま早苗を行かせるわけにはいかないからな。
ちゃんと身を守る術は教える。……縹家のこともあるしな。」

静蘭の言葉に燕青は目を鋭くした。早苗が意識を戻さなかった
原因はやはり術によるものだと判明し、そんなことができるのは
縹家でもかなり力の強い人物だと英姫に教えられたのだ。
早苗を狙う理由を英姫は知っているようだったが、それに関して
彼女は何も言わなかった。

けれど、縹家が関わっているなら確かに早苗は貴陽にいた方が
安全だろう。あらゆる妖の存在を許さない貴陽は、縹家のお得意の
術を発動させることはできない。妙な術が相手ではいかな静蘭と
いえども手が出せないが、剣での勝負ならばそうは負けない。
けれど……。

「なあ、静蘭。俺にとって早苗はきっと最初で最後の弟子だと
思うんだ。だからこそ可愛いし、幸せになってほしいと願っている。
早苗には好きな道を歩いていって欲しいし………………。
それなのに何でなんだろうな。あいつの行く道はどれをとっても
辛かったりとか苦しかったりとか、果てには命の危険があるような
道しかねえんだよ。おかしいだろ……。」

「……たとえ、どんな道であろうとも、選択肢が限られていようとも
早苗はちゃんと納得した上で選んでいる。それだけは間違いはない。」

そのとき、燕青と静蘭の耳に楽しそうに笑っている秀麗と香鈴と
早苗の声が聞こえた。こうしていると三人とも普通の女の子だ。
楽しそうにお喋りして、ついつい夜更かししてしまって――――。

いっそのこと、このまま時が止まってくれたらいいのに。
いつもの燕青なら絶対に思わないことをこのとき彼は願ってしまった。
時が止まってくれたら、秀麗も早苗も燕青の目の届く所で笑っていて
くれるのだ。

「なあ、静蘭。たとえ、俺と早苗の立場がどうなろうとも、俺にとって
あいつは最初で最後の可愛い弟子だよ。悪いけど、お前には帰して
やれねえわ。」

そう言って燕青は静蘭の言葉を待たずに室から出て行った。
それを見送った静蘭も軽い溜息を吐く。貴陽に戻ったら、緊張を
強いられる日々が続くことだろう。自分は平気だけれど、早苗には
酷かもしれない。だから。

「今だけはゆっくり羽を伸ばしてください。」

壁の向こうで笑っているであろう早苗に、聞こえないのを承知で囁いた
静蘭は、室から出て行き燕青とは反対方向に足を向けた。


<あとがき>
燕青と静蘭の会話でした。
けっこう気に入っていた場面だったのですが
話の都合上ボツに。やっとアップできて嬉しいです♪

彩雲国小話

桃花扇の第三部に入れ損ねたネタです。
ヒロイン(?)は香鈴でGO!!





ダンダン、と包丁でまな板を叩く音が厨房に響く。

「……このくらい、でいいですわよね。」

まな板の近くにあるザルには、モヤシや韮、ニンジンや
白菜、キノコ類が食べやすい大きさに切りそろえられて
入っている。

「あとは、鶏団子だけですわ。」

鶏肉を細かく切って叩きつぶし、挽肉にしたものに
すり下ろしたニンニクや生姜、ネギと卵、片栗粉を
いれてよくこねる。生姜は心持ち、多めにいれて。

”早苗は生姜をたっぷりいれた鶏団子が好きなのよ。”

秀麗に教えられたとおり、早苗好みの味付けの鶏団子の
汁物を香鈴は作っている最中だった。

”あとは、春雨も入っていると喜ぶわね。”

早苗の好物なら何でも聞いて、と秀麗は嬉しそうに香鈴に
話してくれた。若干、頬が赤かったような気もするのだが……。

香鈴は小さなレンゲで鶏団子の形を整え、湯の中に次々と
放り込んだ。灰汁を取り、出汁や野菜をいれて味を調える。

「……これでよろしいのかしら?」

味見をしてみると、どうも生姜が効きすぎているような気がする。
けれど、早苗は生姜が強い、と感じるくらいの方が好きだ、と
秀麗にいわれたから、香鈴はそのままにして、椀に汁物を
よそった。


そして、さきほどの秀麗の言葉を香鈴は思い出した。



秀麗だけが冗官という措置に誰もが憤った中、早苗だけがそれを
優遇された措置と言い切った。そのことに香鈴は苛立ち、
早苗に詰め寄ったのだ。けれど、秀麗はそのことには何もふれず、
また、怒りもなかった。どうして、とたずねた香鈴に秀麗は
笑みを浮かべて教えてくれたのだ。

「……みんなが怒ってくれたのは嬉しいわ。でもね、早苗は私を
”官吏”として見てくれたのよ。」
「官吏……ですの?」
「そう。早苗のあの時の意見は、一官吏としての意見だったわ。
あの場所で、早苗以外に官吏としての意見を言ってくれた人はいなかったもの。」

秀麗の言葉に香鈴は軽く目を見張った。確かに、その通りだった。
誰もが秀麗を大事に思っているからこその怒りだったが、それは官吏というより
秀麗個人へ向けられたもの。たとえ、どんな言葉であろうとも、官吏として
意見をもらえるということは、少し前まで朝廷に足を踏み入れられなかった
秀麗にとって何よりも得難い言葉だったのだ。

秀麗が朝廷に足を踏み入れた時から、嘲笑や罵詈雑言の類は山ほどあった。
その中で、ほんの少しだけれど認めてくれた人もいた。けれど、秀麗を官吏として
扱い、なおかつ真っ向から批判してくる人は誰もいなかったのだ。
あるのは、女官吏だからという嘲りと、秀麗への激励。後者はありがたいし、とても
嬉しいけれど、それは”官吏”である秀麗へ向けられた言葉ではなかった。

どのような形にしろ、早苗は秀麗へではなく、柏木官吏として紅官吏への
意見を述べたのだ。それがどれだけ嬉しかったことだろう?

「……でも、あれはご友人の言葉ではありませんわ。」

ぽつりとつぶやいた香鈴の言葉に秀麗は苦笑を浮かべる。

「官吏としての言葉と、友人としての言葉が違うのは当然のことなの。
だから、私は友人としての言葉を聞かせて、と言ったでしょう。」

こくり、と香鈴は無言で頷く。すべてを聞かずとも秀麗には早苗の言葉が
ちゃんと伝わっているのだ。たとえ官吏としての言葉がどれほど
きつくとも、友としての言葉はすべてを包み込むほど温かい。
だから、秀麗と早苗の絆が途切れることはないのだ。

距離が離れていても、間にどんな壁があっても根底に流れる感情は
同じものでそれは変わることはない、と香鈴が聞かずとも秀麗の
瞳が語っている。その揺らぐことのない深い絆に何人たりとも
入る隙はない、というくらいに。

「……早苗さまが殿方でしたら、秀麗さまは早苗さまの元に嫁がれて
いたような気がしますわ。」

何気なく、そして冗談のつもりで言った香鈴の言葉に秀麗は少しだけ
瞳を揺らがせた。

「そうね……。もし早苗が男の人だったら、きっと自分から”結婚しましょう”って
言っていたと思うわ。ものすごく頑張ったわね。」

そう言って秀麗は笑ったけれど、一瞬だけ揺らいだ瞳を香鈴は見逃さなかった。
けれど、それ以上、踏み込むことは香鈴にはできなかった。
秀麗と早苗の間に深い絆がある。それは確かだけれど、少なくとも秀麗には
まだ他の感情があるのでは、と感じ取ってしまうから。
それが何か、はっきりとは香鈴にはわからなかったけれど。



「失礼します。お夜食をお持ちしました。」

早苗がいるであろう室に行ってみると、そこには長椅子に座っている
早苗がいた。そして彼女の膝で眠っているのは……。

「秀麗さま……。」

香鈴が声を発したとたん、早苗は人差し指を自分の唇に当て、
静かにという仕草をした。香鈴は慌てて自分の口を押さえる。
そして、毛布を持ってきてそっと秀麗にかけてやった。
衣はそのままだけれど、髪だけは解かれており蕾の簪が
小卓の上に乗せられている。おそらく、早苗が取ったのだろう。

秀麗は早苗の左手に縋り付くように眠っていた。そして早苗は
空いている右手で秀麗の髪をそっと撫でている。
それを見ていた香鈴は、持ってきた鶏団子の汁物がのっている
盆を持ち上げた。

「早苗さま。これは冷めてしまいますから下げますわね。もし召し上がるなら
一声かけてくださいませ。すぐに温め直してお出ししますわ。
早苗さまが好きな、生姜がきいた鶏団子の汁物ですのよ?」

香鈴の言葉に早苗はとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、香鈴殿。秀麗お嬢さまが起きたらいただきます。」

出来たてを食べてもらえないのは残念だけれど、そのために秀麗を
起こすことは香鈴にはできない。そして、さきほどの嬉しそうな
早苗の笑顔が見られただけで十分だった。

眠っている秀麗を起こさないように、そっと扉を閉めた香鈴は
その足で厨房に戻った。そして、自分が飲むお茶をいれる。
早苗が来たときに、すぐに汁物を出してあげられるように
しばらくは此処にいるつもりだったから。

昼間の、秀麗への早苗の言葉は、香鈴には受け入れることはできない。
秀麗だからこそ、こんなにも被害が少なくそして短期間で収束できたと
香鈴は思っているから。だから秀麗の行動を批判した早苗の言葉は
一生、認められないのだ。

けれど、香鈴は早苗自身を厭うているわけでは決してない。
己の身を顧みず、茶州のために尽力した秀麗を、あんなに穏やかそうに
眠らすことができる人なんてそうはいないと思うから。
秀麗を誰よりも敬愛する香鈴にとって、それはとても重要なことなのだ。


「……秀麗さまを欲しがる殿方にとって最大の壁になりそうですわね。」

熱々のお茶を静かに啜りながら、香鈴は小さくつぶやいた。
そして、此方に向かって歩いてくる二人分の足音と聞き慣れた声を
耳にした香鈴は口端を持ち上げて鶏団子の汁物を温め始めた。

秀麗も早苗も茶州で過ごす日は残り少ない。
たまには女三人で語り合う夜があってもいいだろう、と思って
お茶と菓子にも手を伸ばした。そうしている間にも厨房の扉が開かれ
香鈴は満面の笑みで二人の待ち人を出迎えた。

「お待ちしておりましたわ。秀麗さま、早苗さま。」


<あとがき>
香鈴主役のネタでした。これ書いている最中、鶏団子のスープが
食べたくて仕方なかったです(笑)
茶州編のネタはあとは燕青の話だけなのですが、
この後の女の子三人のお話とか書いてみても面白いかなあと
思う蒼乃でした。
しかし、ヒロインと秀麗をいちゃつかせるのって楽しい(笑)

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

アクセス解析

Copyright ©  -- 気の向くまま --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by Didi01 / Powered by [PR]

 / 忍者ブログ