忍者ブログ

気の向くまま

まったりオタクライフの日々

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

彩雲国小話

桃花扇の第三部に入れ損ねたネタです。
ヒロイン(?)は香鈴でGO!!





ダンダン、と包丁でまな板を叩く音が厨房に響く。

「……このくらい、でいいですわよね。」

まな板の近くにあるザルには、モヤシや韮、ニンジンや
白菜、キノコ類が食べやすい大きさに切りそろえられて
入っている。

「あとは、鶏団子だけですわ。」

鶏肉を細かく切って叩きつぶし、挽肉にしたものに
すり下ろしたニンニクや生姜、ネギと卵、片栗粉を
いれてよくこねる。生姜は心持ち、多めにいれて。

”早苗は生姜をたっぷりいれた鶏団子が好きなのよ。”

秀麗に教えられたとおり、早苗好みの味付けの鶏団子の
汁物を香鈴は作っている最中だった。

”あとは、春雨も入っていると喜ぶわね。”

早苗の好物なら何でも聞いて、と秀麗は嬉しそうに香鈴に
話してくれた。若干、頬が赤かったような気もするのだが……。

香鈴は小さなレンゲで鶏団子の形を整え、湯の中に次々と
放り込んだ。灰汁を取り、出汁や野菜をいれて味を調える。

「……これでよろしいのかしら?」

味見をしてみると、どうも生姜が効きすぎているような気がする。
けれど、早苗は生姜が強い、と感じるくらいの方が好きだ、と
秀麗にいわれたから、香鈴はそのままにして、椀に汁物を
よそった。


そして、さきほどの秀麗の言葉を香鈴は思い出した。



秀麗だけが冗官という措置に誰もが憤った中、早苗だけがそれを
優遇された措置と言い切った。そのことに香鈴は苛立ち、
早苗に詰め寄ったのだ。けれど、秀麗はそのことには何もふれず、
また、怒りもなかった。どうして、とたずねた香鈴に秀麗は
笑みを浮かべて教えてくれたのだ。

「……みんなが怒ってくれたのは嬉しいわ。でもね、早苗は私を
”官吏”として見てくれたのよ。」
「官吏……ですの?」
「そう。早苗のあの時の意見は、一官吏としての意見だったわ。
あの場所で、早苗以外に官吏としての意見を言ってくれた人はいなかったもの。」

秀麗の言葉に香鈴は軽く目を見張った。確かに、その通りだった。
誰もが秀麗を大事に思っているからこその怒りだったが、それは官吏というより
秀麗個人へ向けられたもの。たとえ、どんな言葉であろうとも、官吏として
意見をもらえるということは、少し前まで朝廷に足を踏み入れられなかった
秀麗にとって何よりも得難い言葉だったのだ。

秀麗が朝廷に足を踏み入れた時から、嘲笑や罵詈雑言の類は山ほどあった。
その中で、ほんの少しだけれど認めてくれた人もいた。けれど、秀麗を官吏として
扱い、なおかつ真っ向から批判してくる人は誰もいなかったのだ。
あるのは、女官吏だからという嘲りと、秀麗への激励。後者はありがたいし、とても
嬉しいけれど、それは”官吏”である秀麗へ向けられた言葉ではなかった。

どのような形にしろ、早苗は秀麗へではなく、柏木官吏として紅官吏への
意見を述べたのだ。それがどれだけ嬉しかったことだろう?

「……でも、あれはご友人の言葉ではありませんわ。」

ぽつりとつぶやいた香鈴の言葉に秀麗は苦笑を浮かべる。

「官吏としての言葉と、友人としての言葉が違うのは当然のことなの。
だから、私は友人としての言葉を聞かせて、と言ったでしょう。」

こくり、と香鈴は無言で頷く。すべてを聞かずとも秀麗には早苗の言葉が
ちゃんと伝わっているのだ。たとえ官吏としての言葉がどれほど
きつくとも、友としての言葉はすべてを包み込むほど温かい。
だから、秀麗と早苗の絆が途切れることはないのだ。

距離が離れていても、間にどんな壁があっても根底に流れる感情は
同じものでそれは変わることはない、と香鈴が聞かずとも秀麗の
瞳が語っている。その揺らぐことのない深い絆に何人たりとも
入る隙はない、というくらいに。

「……早苗さまが殿方でしたら、秀麗さまは早苗さまの元に嫁がれて
いたような気がしますわ。」

何気なく、そして冗談のつもりで言った香鈴の言葉に秀麗は少しだけ
瞳を揺らがせた。

「そうね……。もし早苗が男の人だったら、きっと自分から”結婚しましょう”って
言っていたと思うわ。ものすごく頑張ったわね。」

そう言って秀麗は笑ったけれど、一瞬だけ揺らいだ瞳を香鈴は見逃さなかった。
けれど、それ以上、踏み込むことは香鈴にはできなかった。
秀麗と早苗の間に深い絆がある。それは確かだけれど、少なくとも秀麗には
まだ他の感情があるのでは、と感じ取ってしまうから。
それが何か、はっきりとは香鈴にはわからなかったけれど。



「失礼します。お夜食をお持ちしました。」

早苗がいるであろう室に行ってみると、そこには長椅子に座っている
早苗がいた。そして彼女の膝で眠っているのは……。

「秀麗さま……。」

香鈴が声を発したとたん、早苗は人差し指を自分の唇に当て、
静かにという仕草をした。香鈴は慌てて自分の口を押さえる。
そして、毛布を持ってきてそっと秀麗にかけてやった。
衣はそのままだけれど、髪だけは解かれており蕾の簪が
小卓の上に乗せられている。おそらく、早苗が取ったのだろう。

秀麗は早苗の左手に縋り付くように眠っていた。そして早苗は
空いている右手で秀麗の髪をそっと撫でている。
それを見ていた香鈴は、持ってきた鶏団子の汁物がのっている
盆を持ち上げた。

「早苗さま。これは冷めてしまいますから下げますわね。もし召し上がるなら
一声かけてくださいませ。すぐに温め直してお出ししますわ。
早苗さまが好きな、生姜がきいた鶏団子の汁物ですのよ?」

香鈴の言葉に早苗はとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、香鈴殿。秀麗お嬢さまが起きたらいただきます。」

出来たてを食べてもらえないのは残念だけれど、そのために秀麗を
起こすことは香鈴にはできない。そして、さきほどの嬉しそうな
早苗の笑顔が見られただけで十分だった。

眠っている秀麗を起こさないように、そっと扉を閉めた香鈴は
その足で厨房に戻った。そして、自分が飲むお茶をいれる。
早苗が来たときに、すぐに汁物を出してあげられるように
しばらくは此処にいるつもりだったから。

昼間の、秀麗への早苗の言葉は、香鈴には受け入れることはできない。
秀麗だからこそ、こんなにも被害が少なくそして短期間で収束できたと
香鈴は思っているから。だから秀麗の行動を批判した早苗の言葉は
一生、認められないのだ。

けれど、香鈴は早苗自身を厭うているわけでは決してない。
己の身を顧みず、茶州のために尽力した秀麗を、あんなに穏やかそうに
眠らすことができる人なんてそうはいないと思うから。
秀麗を誰よりも敬愛する香鈴にとって、それはとても重要なことなのだ。


「……秀麗さまを欲しがる殿方にとって最大の壁になりそうですわね。」

熱々のお茶を静かに啜りながら、香鈴は小さくつぶやいた。
そして、此方に向かって歩いてくる二人分の足音と聞き慣れた声を
耳にした香鈴は口端を持ち上げて鶏団子の汁物を温め始めた。

秀麗も早苗も茶州で過ごす日は残り少ない。
たまには女三人で語り合う夜があってもいいだろう、と思って
お茶と菓子にも手を伸ばした。そうしている間にも厨房の扉が開かれ
香鈴は満面の笑みで二人の待ち人を出迎えた。

「お待ちしておりましたわ。秀麗さま、早苗さま。」


<あとがき>
香鈴主役のネタでした。これ書いている最中、鶏団子のスープが
食べたくて仕方なかったです(笑)
茶州編のネタはあとは燕青の話だけなのですが、
この後の女の子三人のお話とか書いてみても面白いかなあと
思う蒼乃でした。
しかし、ヒロインと秀麗をいちゃつかせるのって楽しい(笑)

PR

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

アクセス解析

Copyright ©  -- 気の向くまま --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by Didi01 / Powered by [PR]

 / 忍者ブログ