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気の向くまま

まったりオタクライフの日々

カテゴリー「彩雲国小話」の記事一覧

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よいお年を

今年最後のブログです。
Dグレで始まり、彩雲国で終わった一年でした(笑)
果たして、来年の今頃は何に嵌っているのか
自分でも想像できません。

サイトに来てくださったすべての方達に深い感謝を。
本当にありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします。


年末の挨拶が終わったところで、恒例となりつつある
小話です。

桃花扇本編に入れ損ねたネタです。
茶州にて、悠舜さまとの会話。


「共におりましょう。『最後』まであのお方のお側に。」

櫂喩との会話のあと、燕青と話していた悠舜は、
ご馳走目当てに宴会に加わった燕青を視線で見送り、
早苗を捜していたのだが、ほどなくして彼女を見つけることができた。

宴会に加わらず、一人静かに四阿で甘露茶を啜る姿を。

そして、向かい合わせに座った悠舜は、開口一番に上記の
言葉を口端に乗せたのだ。

「はい、悠舜さま。」

軽く瞑目してから早苗ははっきりと悠舜の言葉に頷いた。
朝賀にて、主上は悠舜を尚書令に迎えたいと言ってくれた。
そして、退室間際に側近が控えていない王は寂しそうながらも

”余には友がいる。秘密の宴会をする仲なのだぞ。”

そう言って悪戯っぽく笑っていた。誰かと訪ねたら、主上は
早苗の名前を口にしたのだ。一国の王である劉輝と早苗が
どうやって知り合ったのか悠舜にはわからなかったが、
浅からぬ関係でないことは推測できた。そして、先ほど櫂喩が
言っていた言葉。

”微力ながらも味方がおります。なによりも主上の御為に
尽くし、そして命すら差し出せるほど忠義に富んだ味方が。”

そう言って櫂喩が教えてくれた名前は主上が教えてくれた
名前と同じもので。

悠舜は感嘆の溜息を吐いた。自分は朝廷に足を踏み入れたとき、
底なしの暗さに足を掬われそうになり、結果として逃げ出すような形で
茶州に来てしまった。そのことを後悔してはいない。この十年は
悠舜にとって何よりも得難いものだった。けれど、
自分よりも年若くして官吏となり、そして自分と同じように後ろ盾すら
持たない彼女は、権謀術数の朝廷の中にいても、底なしの暗闇に
足を取られることなく、主上への忠誠を決意した。

先王のように実力も実績もなく、大官達の信頼を得ていない
現王へ忠誠を誓うということは、命の危険を伴う。
けれど、目の前の少女はさも当然と言わんばかりに受け止めている。

あの頃の悠舜にはその決意を固めることができなかった。
戻るまでに十年もかけてしまったのだ。

「悠舜さま。」
「なんでしょう?」
「私、貴陽に帰還したらすぐに中書省への異動願いを出します。」

早苗の言葉に悠舜は軽く目を見張った。

「私、上へ行きます。主上の御為に。そして、お守りする為に。」

だから待っていてください、と聞かずともその言葉は悠舜に
届いた。貴陽から戻ったら、悠舜は文字通り孤軍奮闘せねば
ならないだろう。残念ながら、今の若い側近達をあてにすることは
できない。

「なるべく早く……全速力で上に行きます。」
「ええ、待っていますよ。だから早く、来てくださいね。」

中書省の酷さは悠舜も伝え聞いている。長官は基本的に不在であり
なおかつ、貴族派と国試派の派閥が顕著であるゆえ、
省としての機能はあまり期待できない。
そこを早苗が押さえることができるならば、彼女の出世への道に
光が差すこむことだろう。

逆に言うなら、そのくらいのことをしなければ早苗は出世できない。
女官吏で後ろ盾がなく、下位及第というのはどう考えても
出世はできないのが常識なのだから。
それを覆すには、誰もができぬ事をやらねば周囲は認めてくれない。

そして、王に直結している中書省を早苗が把握すれば、劉輝は
四省のうち、一つを確実に味方につけられることになるのだ。
四省の長官は宰相会議に出られる権威を持つゆえ、六部の長官より
官位は高く、そして使える権力も大幅に広くなる。

「中書省の長官の位……。空けておきますよ、貴女の為に。」
「はい。必ず、上ってみせます。」
「ええ、ぜひ、一日も早く……上ってきてください。」

眦を下げて優しくほほえむ悠舜に釣られるように早苗も笑った。
早苗の両眼からその決意の強さは手に取るように悠舜に
伝わった。



しかし、それに相反するかのように早苗の顔は青白かった。
月明かりのせい、とは言い切れないほどに。



<あとがき>
最後の更新がこれって……と思ったのですが、
どうしても更新したかったのです。茶州編の小話はあと
2つほどあったり。香鈴のと燕青の話。これは年明け
かなあ。
第四部のプロットはだいたい決まりました。あとは
一気に書き上げるだけですが、年が明けて落ち着いたら
書き出します。それまでは、小話メインで。



続きはメッセージの返信です。ありがとうございました!!




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・・・つづきはこちら

彩雲国小話

桃花扇本編にいれそこねたネタです。



お正月も間近なある日のこと。年賀の挨拶の重圧に今にも
押しつぶされそうな克旬を激励すべく、早苗は龍蓮と
珀明(強制的に呼び出した)と一緒に鍋宴会をすることにした。

年が近い彼らなこと。鍋をつついている間に、不思議と
友情が芽生えるものである。とくに克旬にとって、
他の彩七家との人間と親しくなれるのは彼にとっても
家にとっても決して損にはならず、珀明にとっても同じであろう。

最も、早苗はそこまで考えたわけではなく、ただ単に
龍蓮の歯止め役が自分一人では心許ないゆえ、珀明を
巻き込んだだけである。

ひとしきり、鍋をつつき一息ついたころ、早苗はぽつりと
つぶやいた。

「……拉麺(※ラーメンのこと)が食べたい。」
「お前、あれだけ食べておきながら、まだ余裕があるのか。」

男三人の中に女一人という構図は世間体からみれば眉を
潜められる類ものであるが、この女にそんな心配は無用だろうと
珀明は心底思っている。第一、男三人に負けず劣らず、
ガツガツ食べる女に色気を感じろというのが無理な話だ。

「でもさ、鍋のあとは拉麺が食べたくならない?」
「お前だけだろう。食べ過ぎは腹をこわすぞ。」
「では、早苗のために私が一曲捧げよう。」

「「却下!!」」

龍蓮が笛を掴もうとした瞬間、珀明と早苗はものすごい早さで
止めに入った。その連携の見事さに克旬は素直に感心している。

「本当に仲がいいんだなあ。」

珀明と早苗は龍蓮の笛を止めようと必死なのだが、克旬からみれば
微笑ましい光景らしい。その大物っぷりには珀明も早苗も頭が
下がる思いである。さすが、茶家当主だ、と。

「あ、そうだ。龍蓮、ちょっと笛貸して。」
「む。なにをするのだ?」
「別に龍蓮の頭を殴るわけじゃないから安心してよ。」
「……お前、そういう言い方はどうかと思うぞ。」

普通に借りればいいだろう、と言う珀明の冷たい視線を受け流し
早苗は、いいことを思いついたと言わんばかりに笛を構える。

「……そうだね。龍蓮的にいうなら、”拉麺を求めて三千里”、だね。」
「は?」

目を丸くしている周囲をよそに、早苗は一気に音を鳴らした。


ちゃらり~らり、ちゃらりらりら~♪


「「「うっ!!!」」」

すでに腹がふくれているはずなのに、何故か拉麺を食べてもいいかな、
なんて音を聞いた瞬間に思ってしまった。

「……ふっ。これぞ秘技、”ちゃるめら!!”」
「ちゃ、ちゃるめら?」
「そう。これを聞けば、なぜか拉麺が食べたくなってしまう不思議な音色。
さあ!君たちの頭の中に、美味しそうな拉麺が思い浮かんでいるはず!!」

三人は否定できなかった。確かに、さっきの音色を聞いた瞬間、
ほかほかと湯気が出ている美味しそうな拉麺を想像してしまったのだから。

「寒い夜は屋台の拉麺が格別に美味しい!なぜか酒を飲んだ後の
真夜中だと抜群に美味!!というわけで、美味しいと評判の屋台に
今から行きましょう!!」
「し、仕方ないな。」
「うむ。」
「うわぁ、いいですねえ!!」

早苗の誘いを誰も断ることはできなかった。彼らの頭の中は
今は拉麺でいっぱい。今すぐにでも食べたい勢いだった。
年明け間近の真夜中、仲良し四組(?)は連れだって屋台に
拉麺を食べに外に出た。


「おっちゃん!私、味噌叉焼拉麺(味噌チャーシューメン)ね!!」
「僕は醤油だな。」
「うむ。塩味のを頼む。」
「えーと、それじゃ僕は野菜がたくさん入ってるのをください。」
「へい、らっしゃい!すぐに作るから待っててくれよ!!」

寒空の下、楽しい仲間と食べる拉麺は特別美味しく感じる。
また来年、こうして一緒にいられる保証なんてないけれど。
それでも、だからこそ、こうして、

「「「「かんぱーい!!!」」」」

熱燗、ならぬ熱々の拉麺どんぶりで乾杯。


身を切るような寒さだけれど、馬鹿笑いしながらこうしていると
その寒さも気にならなくて、それどころか逆にワクワクしてくるから
楽しくて仕方がない。

色々あった一年だった。きっと来年も色々あることだろう。
それでもこうやって大声で楽しく笑いあえる時間がもてるなら
また頑張れる。だから今日だけ羽目を外して騒ぐのだ。


来年もまた、いいことがありますように……と祈って。



<あとがき>
第三部でいれそこねた、年末ネタでした。ちょうど折しも
年末なのでアップ。実際はこれより長いし、珀明と克旬との
挨拶とか、龍蓮とのドタバタとかあったのですが、長くなるので
割愛。クリスマスドリやお正月ドリは無理ですが、せめて
年末だけでも、と思って書いていました。
いや、書きたかったのはチャルメラネタなんですが!(笑)

彩雲国小話

桃花扇パラレル・ヒロイン5歳児設定でGO!!



「あのね、早苗。藍将軍は武官でもとてもえらい方なのよ。」

秀麗のそんな一言からすべては始まった。

「しょーぐん……!!!!」

将軍という一言に早苗の目が思いっきり輝いた。
そりゃもう、キラキラとまぶしいくらいに。
ぱあっと輝いた瞳で見つめられ、楸瑛がにっこりと微笑み返す。

「早苗は将軍を知っているのかい?」
「はい!」

他の人にはさっぱり伝わっていないが、今の早苗の脳内には
暴れん◎将軍の曲が、ちゃーららーらららーららー♪と
流れていた。松◎健が馬に乗り颯爽と砂浜を駆け抜けていく
名場面である。

「お馬さんにも乗れるの!!」
「馬?ああ、もちろんだよ。将軍たるもの、馬は乗りこなせないとね。」
「っっっ!!!」

将軍、馬の乗れる。その二点で早苗の心を掴むのには十分だった。
まるで初恋の王子さまを見つけたといわんばかりにやや興奮した
面持ちの早苗に見つめられ、楸瑛はくすぐったそうに笑う。

「早苗は将軍が好きなのかな?」
「うん!!」

祖父と祖母と一緒に見ていた将軍さまは、最後の見せ場にはそりゃもう
バッタバッタと敵を倒していく。ある意味、おきまりな場面でもあるのだが
幼心に早苗は格好よく剣を使うその将軍さまが大好きだった。
自分も、祖父に教えられ剣を使うから余計かもしれない。

「剣!剣は?」
「ああ、これかい?」

武官として剣は常に携帯している。さすがに手渡すわけにはいかないが、
鍔に菖蒲の文様が掘られている剣を早苗に見せた。

だが、それを見た早苗は秀麗に振られた主上の如く落ち込んでしまった。

あわてたのは楸瑛である。静蘭から送られる氷柱のような視線を感じつつ
早苗を慰めようと必死であった。

「えーと、どうしたのかな、早苗。」
「……違う。」
「え?」
「将軍はそんな剣なんて持たない……。」

剣を扱うものなら垂涎の的である楸瑛の名刀を、早苗はそんな剣と
ばっさり切り捨てた。

「早苗が知っている将軍はどんな剣を持っているんだい?」

さすがに気の毒に思ったのか、邵可が助け船を出した。
早苗は落ち込んだ空気を醸し出しつつ、自分の知っている剣の
特徴を並べる。

「あのね、鞘は黒く光ってて、先っぽが曲がってるの。
そんでね、葵の御紋がなくっちゃ駄目なの。」

葵の御紋は将軍の証ではなく、徳川家の家紋なのであるが
そんなことは5歳児にはわからない。葵の御紋=将軍の印という
非常に単純明快な図式が成り立っているのだ。

「葵の五問?」
「葵の五文?」

邵可と楸瑛が思い浮かべたものは、発音は同じなれど、全く
異なるものであった。早苗が家紋という認識がない以上、
それは解かれることのない誤解である。

「つまり、藍将軍は早苗にとって偽物ということですね。」
「……静蘭。」

自分だって剣はあるし馬にだって乗れる。けれど将軍職ではない
静蘭は、早苗に尊敬のまなざしで見られたことが気にくわなくて、
平然と偽物呼ばわりした。曲がりなりにも(?)正真正銘、楸瑛は
将軍なのだが。

一方、早苗にあんな目で見られた楸瑛を一瞬だけ羨ましく思った
絳攸だったが、今の楸瑛と早苗の様子を見ていると、自分は
文官でよかったとつくづく思うのだった。


「……楸瑛さま。偽物の将軍だったんだ……。」
「いや、だからね?早苗の知っている将軍とは違うかもしれないけど
私は本当に将軍職を拝命しているんだよっ!?」
「ははは。往生際が悪いですよ、藍将軍。」

静蘭の腕の中で、どよん、と落ち込む早苗を必死に慰める
楸瑛の後ろ姿は、どう贔屓目に見ても、将軍とは言い難かったとか。



<あとがき>
メリークリスマス!!(上記となんら関係ない・笑)
時代劇大好きっ子のヒロインですから、将軍には反応すると
思うんです。でも、暴れん◎将軍とは違うわけですから
ショックを受けるわけですよ。ああ、不憫な藍将軍(笑)

ストックもあと片手も残っていません。
ストックの分は今年中に更新しちゃおうかな?



お次はメッセージの返信です。ありがとうございました!!


・・・つづきはこちら

彩雲国小話

桃花扇パラレル・ヒロイン5歳児設定でGO!!




「あ、早苗。動いちゃ駄目よ。」
「はぁい。」

食事が終わった後、お茶を飲みつつ会話をする邵可や
楸瑛、絳攸の視線の先に、早苗の髪を嬉々として結っている
秀麗の姿がうつった。まるで仲のいい姉妹のようで
見ているだけでも微笑ましい光景である。

「邵可さま。秀麗殿と早苗はとても仲がいいのですね。」
「ええ。とくに秀麗は早苗を可愛がっていましてね。
おかげで、なかなか私のところまでまわってきません。」

そう言いながらも、邵可の笑みはとても優しげで。
それを見ている楸瑛と絳攸も自然と笑みがこぼれた。
手先が器用な秀麗は、さほど長さのない早苗の髪であっても
綺麗に編み込んでいく。そして、色々な組紐や簪を
ああでもない、こうでもないと言いながら飾っていくのが
この最近の秀麗の日課であった。

「ほら、可愛いでしょう?」
「ああ。とても可愛いよ、早苗。」
「まるで姫君のようだね。」
「ひめぎみ?」

楸瑛の言葉に反応した早苗は首を傾げた。

「つまり、お姫様ということだよ。早苗は大きくなったら
お姫様になりたいかい?」
「はい!」

小さな女の子らしい夢に周囲の大人達は口元をほころばせて
笑った。やっぱり、子供はこうでないと、と思って。

「それじゃあ、早苗は王子さまのお嫁さんになるのかな?
なるべくなら遠くにお嫁に行って欲しくないんだけどね。」

ちゃっかり本音を混ぜつつ邵可は早苗をひょいっと
膝の上にのせる。

「おうじさま?」
「そう。王子さまだよ。」
「王子さまってどこにいるの?」
「どこだろうね。遠くにいるかもしれないね。
どうする?早苗はこの家でずっと王子さまを待ってるかい?」
「父さまったら、何を言ってるのよ。」

5歳の子に言ってもわからないわよ、と秀麗に苦笑され、
邵可もそうかな、と笑った。けれど、ただ一人、早苗は
うーん、と考え込んでいる。それに気づいた絳攸が
早苗に声をかけた。

「どうした、早苗。」
「王子さまってどこにいるのかなって思って。」
「……さぁ、それは俺もわからんな。」

どう説明していいかわからず、絳攸は言葉を濁した。
それが切っ掛けになったのか、早苗は満面の笑みを
浮かべて邵可を見上げる。

「それじゃ、私が迎えに行く!!」

「「「「「え?」」」」」

早苗以外の全員の声が重なった。
けれど、早苗はいいことを思いついたと言わんばかりに
邵可に一生懸命説明をした。

「王子さまってどこいるかわからないんでしょう?
だったら自分で探しに行った方がいいと思うの。
だから、ね?父さま、私、自分で王子さまを探しに行くよ!」

待つんじゃなくて、迎えに行く。その言葉に、期せずして全員が
ああ、やっぱり早苗だ、としみじみと思った。
たとえ5歳でも早苗に何一つかわりはない。
幼い頃から、やっぱり彼女は彼女のままなのだ。

邵可は一瞬だけ言葉を詰まらせたが、そっと早苗の頭を
撫でてやった。

「早苗らしいね。でもね、父さまはお姫さまの迎えを待っているような
甲斐性なしに、早苗を嫁がせるつもりはないからね。」

やたらと真面目を顔をして早苗に懇々と諭し始めた
邵可を誰も止めることはできなかった。実の娘である秀麗でさえも。

「えー、でも自分で行った方が……。」
「そうだけどね。ずっと受け身でいるような根性なしと結婚したら
早苗が苦労するからね。やっぱり親の反対を押し切る根性を
持つような男じゃないと駄目だよ。」
「……父さま。」

長々と説教(?)をしだした邵可を止められるものはここには誰もいない。
事の成り行きを見守っていた楸瑛は小声でつぶやいた。

「……やっぱり紅尚書の兄上だね、絳攸。」
「……。」

大切なものはいつまでも手元に。そう簡単に手放さないのはきっと
紅家の血筋だな、と言う楸瑛の言葉を絳攸は無言で聞いていた。

「というか、早苗が誰かと結婚したい、と言ったときにどうなるか
よぅくわかったよね。秀麗殿といい、早苗といい、相手となる男は
冗談抜きで心から同情するよ。」

果たして主上と自分ではどちらが分が悪いのだろうかと絳攸は
考えた。しかし、惚れた女が5歳児に戻ってしまったという時点で
どう考えても自分の方が最悪だろうという考えにたどり着き、
絳攸は深い溜息を吐いた。

ちなみに、視線の先には、今だに邵可に諭されている早苗がいた。


<あとがき>
そろそろストック切れになりそうです(苦笑)
たとえ5歳でもヒロインらしいところを書きたかったのですが
邵可さまが出張りすぎて霞んでしまいました。
次は藍将軍との絡みを書きたいなあ。
え?絳攸?今のところ、ネタがないのでスルーの方向で(酷)

彩雲国小話

桃花扇パラレル、5歳児設定でGO!!



挨拶をすませた後、絳攸は懐から綺麗な薄紙に包まれた
小箱を取り出し、早苗に差し出した。

「土産だ。お前にやる。」
「何が気に入るかわからないからこちらで選んでしまったけれど
よかったらもらってくれるかな?」

早苗が顔を上げて秀麗の方を見る。
秀麗はにっこり笑って頷いた。それを見た早苗が小さな手を
小箱に伸ばす。それは、薄桃色や橙色、鬱金色といった
目にも鮮やかな薄紙に包まれて茜色の紐でくくられており、
いかにも女の子が好みそうな外見をしていた。

その綺麗さに、早苗は一瞬目を奪われたがすぐに我に返り
楸瑛と絳攸の方を向き、笑顔を浮かべて頭を下げた。

「ありがとうございます。楸瑛おじさん。絳攸おじさん。

その瞬間、物の見事に時間が止まった。
早苗は彩雲国いても、感覚は元の世界の影響が強い。
よって、相手を「さま」と呼ぶ習慣がないのだ。
かといって、「さん」と呼ぶ意識も薄い。

お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お姉さん、お兄さん、
おじさん、おばさん、といった具合の呼び方が思い浮かぶのだ。
5歳児からみれば、自分の親と似たような年齢は「おじさん・おばさん」と
いう感覚である。

よって、早苗は躊躇することなく、楸瑛と絳攸をおじさん呼ばわりしたのだ。
だが、固まっている二人を見て、違っただろうか、と早苗は再び
秀麗の方を見上げた。

「……姉さま。」

何が間違えたの、と不安そうな目で見つめる早苗を見て、秀麗はどうしようか、と
一瞬だけ迷った。しかし、それより先に、違う人物がひょいっと早苗を
抱き上げた。

「どうしましたか、早苗?」

早苗を抱き上げたのは、帰ってきたばかりの静蘭であった。
しかし、いつもならお帰りなさいと出迎えてくれる妹は今日はなぜか
不安そうな目をしている。静蘭は早苗の目の前に突っ立っていた(静蘭にはそう見えた)
男二人に容赦なく冷たい視線を向ける。

「……早苗に何をしたんですか、お二方?」

きりきり吐けと言わんばかりの口調と醸し出す黒い空気に楸瑛と
絳攸は思わず一歩下がる。そして、秀麗が小声で事の経緯を
説明した。

「あのね、藍将軍と絳攸さまが早苗にお土産をくださったの。
そのとき、早苗がお礼を言ったのだけれど……。」
「正しいことではありませんか。」
「そ、そうなんだけれど、早苗は藍将軍と絳攸さまを、おじさん呼ばわりして……。」

さすがに秀麗も最後までは言いにくく、語尾がどんどん小さくなった。
それでも、ちゃんと理解した静蘭は軽く溜息を吐く。そして後は任せて、と
秀麗に言い、静蘭がいるなら、と秀麗は菜の支度をする為に立ち去った。

「……まったく、その程度のことで早苗を不安がらせるとは、
情けないにもほどがありますよ、お二方。」

そのくらい流せ、と言外に告げられ、楸瑛と絳攸はうっと怯む。
確かに幼子の言葉なのだから流してもいいのだろうけれど
おじさん呼ばわりされたことのない二人には意外と堪えたのだ。

しかし静蘭はそんな二人の葛藤を川の流れのように流し
抱きかかえた早苗の頭を優しく撫でてやる。

「ちゃんとお礼を言えたんですね。えらいですよ。」
「……本当?」
「本当ですとも。」

優しい笑顔(楸瑛や絳攸には絶対に向けられない類の笑顔)を見て
早苗もほっとした表情を浮かべる。そして、そういえば、と何か
思い出したのか、静蘭ににこっと笑いかけた。

「お帰りなさい。兄さま。」
「ただいま、早苗。」

いつも通りのほのぼのとした兄妹(?)の会話ではあるが
そこに割って入る声が響く。

「ごめん、ちょっといいかな?」
「……なんですか、藍将軍。」

邪魔すんな、と問わずとも楸瑛と絳攸には聞こえた。ばっちりと。

「えーと、静蘭。君は早苗に兄と呼ばれているのかい?」
「ええ、それがなにか?」
「君、私たちより年上……。」
「ははは。冗談は顔だけになさってください、藍将軍。
「……楸瑛よせ。命は無駄にするな。」

勝ち目はないぞ、と絳攸は的確な言葉を楸瑛にかけた。
蛇に睨まれた帰るのごとく、固まっている楸瑛を早苗は
不思議そうな顔をして見ていた。

ちなみに、邵可が帰宅して事の真相を聞き、早苗に諭すまで
楸瑛と絳攸はさんざん「おじさん」呼ばわりされることとなった。
静蘭のどす黒い空気に脅されつつ、引きつった笑顔で
頷いた二人は、短時間で寿命が軽く三年は縮んだおもいをしたらしい。


<あとがき>
楸瑛と絳攸の出会い編終了~。実は、5歳児パラレルを
思い浮かんだときから書きたかった場面でした。
この二人をおじさん呼ばわりするヒロインが書きたかった!!(笑)
書けて満足です。そしてネタより静蘭がずっと腹黒くなったのに
びっくりです。元公子さまはさすがに強い!
この二人とヒロインの絡みもちまちまと書いていきたいなあ。

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